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ロレックス オーバーホール 修理 (有)友輝 全国配送対応

ロレックス サブマリーナ Ref.16803 オーバーホール

ロレックス サブマリーナ Ref.16803 オーバーホール


  • ロレックス サブマリーナ Ref.16803

    オーバーホール+部品交換多数という事で、他社で15万円+@という見積もりがされた1980年代製造のロレックス・サブマリーナRef.16803です。

    若干遅れ気味ではあるものの顕著な異常が無い事から、お客様はこの見積もりに躊躇し、一旦引き上げて当社へお問い合わせいただいた次第です。

    メールでのお問い合わせの段階で、お客様から他社での見積もりが添付されておりました。
    その内訳は以下の通りです。

    オーバーホール
    新品仕上げ(ご希望の場合)
    ガラスパッキン(未交換可)
    裏蓋・リューズパッキン
    ゼンマイ
    ローター軸
    自動巻切替車×2
    2番歯車
    3番歯車
    香箱受プレート(未交換可)¥50,000+@
    総額 ¥150,000+@

    香箱受プレート以外の具体的な部品価格は伏せますが、当社と比較してオーバーホール料金はやや安価、部品代は総じて高価です。

    当社の場合、視覚的効果が高く、ほとんどのお客様にご満足いただいている簡易研磨仕上げと裏蓋・リューズパッキンはオーバーホール料金に含まれております。

    簡易研磨の効果は作業前・作業後を撮影した2枚の画像をご覧ください。

    ↓簡易研磨前

    ロレックス ブレス 傷


    ↓簡易研磨後

    ロレックス バンド 研磨

    ここまで交換部品が多くなりますと、製造メーカー故に部品価格が安いうえ、いくつかの内装部品はオーバーホール料金内で交換する事も多い日本ロレックスでの作業の方がずっと安く済む可能性があるのです。

    そういった可能性がある場合、当社では日本ロレックスでの作業を提案する事にしております。

    「自分の時計ならどう対処するか」が当社の基本方針ですので、自分なら選択しない方法をお客様にお奨めする事は出来ません。

    当社は現物を拝見する前でも、画像とメールによる問診でかなり正確な概算見積もりを行う事が特徴ですので、果たしてここまでの部品交換が必要なのかを見極める事にいたしました。

    まずは他社では¥50,000~であり、当社でも非常に高価な部品である香箱受け板の交換が必要な状態かどうかを見極めなければなりません。

    実際に現物を手にとって手巻きをしてみれば感触で即座に判断できるのですが、それだと「見てみないと分かりません」、「交換前提での見積もり」という、よくある事前診断になってしまいます。

    このRef.16803サブマリーナに搭載されている内部機械cal.3035は、オイル切れのまま使用し続けると香箱受け板と一体化している歯車軸の磨耗、破損が発生しますので、他社での見積もりもこの持病をよく理解しているといえます。

    当社では以下のページで紹介しているように、ほとんどの場合は受け板自体の交換にはならず、ずっと安価な補修での対応が可能ですが、それでもこの補修加工には¥15,000~かかりますので、出来る限り事前概算見積もりで交換の必要性を見極めておきたいところです。

    →受け板交換せず、軸補修で対応したエクスプローラーⅠ


    香箱受け板、切換え車の交換が必要となるのは画像のような状態の場合です。

    ロレックス 手巻き 感触

    ロレックス 歯車 磨耗

    オイル切れのまま手巻きをして使用し続けたため、軸周りが摩耗して変形しているのがわかります。

    こうなると手巻きの際に”ガリガリ”という嫌な感触が感じられるようになります。

    ここは当社独自のノウハウで、企業秘密でもありますので詳細の記述は控えますが、メールでお客様に、ある操作方法を指示して試していただく事により、香箱受け板、切換車共々交換不要である、という判断をいたしました。

    その他にもいくつか時計の状態を質問し、概算見積もりとして¥54,000~¥64,800という金額をお伝えしました。

    ロレックスの部品価格はここ5年ほどで一気に高騰しており、追加部品が一つ増えただけで¥10,000上乗せされることは珍しく無くなっております。
    そのため現物を拝見する前の段階では、どうしてもこの程度の幅を持たせることが必要となってきます。

    その後間もなく、当社指定の専用配送パックのご依頼をいただきましたが、送付先のご住所を確認したところ、かなり遠方にお住まいの方でした。
    こういったご遠方のお客様の場合、時計を送付いただいてからのキャンセルとなりますと往復の送料がかさむ為、お客様、当社ともに後味の悪い結果を招きます。

    →配送パックの詳細はこちら

    ロレックス オーバーホール 郵送

    そのため必ず時計の画像を添付していただくなど、お問い合わせの段階として面倒なのは重々承知しておりますが、当社では事前の概算見積もりを非常に綿密に行っている事をご了承ください。

    間もなく遠方からRef.16803サブマリーナを送付いただきました。

    これから見積もり/交換部品を決定するにあたって、この時点で見逃してはならないポイントが1つあります。

    日本ロレックスではそのような事はありませんが、他社では部品末交換のままオーバーホールが行われがちな箇所です。

    当社では現物を拝見する前のお問い合わせの段階で、その箇所の部品交換が必須である事を予測しておりました.

    その交換部品はお客様から送られてきた画像で既に判別可能だったのですが、ここではより分かりやすくするために文字盤+針を本体ケースから取り出した画像をご覧下さい。

    ロレックス サブマリーナ 文字盤

    ロレックス サブマリーナ 針交換

    針と文字盤にカビのような模様が浮き出ているのが分かりますでしょうか?

    これはガラスパッキンの劣化で湿気が混入して発生した、針のメッキと文字盤塗装の劣化です。

    リューズの締め忘れ+水没で発生した浸水とは異なり、大気中の湿気がじわじわと侵入するものの、ガラス内面の曇りなどが発生しにくいため、使用者が気づきにくいという厄介な特徴があります。

    こうなると修復は不可能で、動作に支障がない限り現状のままとなります。

    針や文字盤の劣化が表面化していても、ガラスパッキンの交換をしないままオーバーホールを済ませてしまうと、文字盤塗装の剥離や針固定部の割れなどが発生し、後々大きな問題となります。

    次にガラス固定枠を外してみると、思ったとおりの状態でした。
    本体ケース、固定枠共にサビが発生し、装着されているゴムパッキンは完全に劣化しています。

    ロレックス ガラス交換

    ロレックス パッキン交換

    過去二回、日本ロレックス以外で行われたオーバーホールでは、この箇所を外さずに作業が行われ、当然パッキンも未交換のままだった可能性が濃厚です。

    これでは文字盤、針の劣化が進行するはずです。

    次は高価なうえ2個使用しているので、交換となった場合は高額の見積もりとなる自動巻き切替車のチェックです。

    裏蓋開封前のリューズ操作でほぼ交換は不要と判断しましたが、他社で交換必須という見積もりがされておりますので、ここは念を入れて交換の有無を見極めます。

    しかし顕微鏡で検査しても交換が必要となるような磨耗や変形は確認できませんでした。

    交換が必要な場合の顕著な例として、歯車軸が磨耗していたり、白丸で囲った箇所は通常丸穴なのですが、横へ拡がって変形しているといった状態となっている事が挙げられます。(左が正常な切替車です)

    ロレックス 歯車 交換

    ここは部品単体にまで分解しなくとも、裏蓋を開封するだけで確認可能な箇所ですので、あまり手間を掛けずに正確に交換の有無を見極めることが可能です。

    次は他社で5万円という見積もりがされた香箱受け板のチェックです。

    ここも手巻きの感触だけで、ほぼ交換不要であるという確信がありましたが、通常見積もり段階では行わないところまで分解して確認いたしました。
    その結果、摩耗や変形が少なく交換までは不要というより、大変状態が良好で新品部品と言われても通用するような状態でした。

    ロレックス 部品交換

    ロレックス 部品 交換

    交換(当社の場合はずっと安価な軸作成で対処)が必要となるのは、赤丸で囲った画像のように、軸が摩耗して歯車が偏心している場合です。

    ロレックス 部品 変形

    お問い合わせの段階で受け板が交換となる可能性を示唆していたほど、cal.3000系の特徴をよく理解していたのに、現物を預かった後の見積もりで交換/加工の有無を判断出来なかったのは何故なのでしょう?

    やはりオーバーホールを実際に行っている作業者自身が見積もりを行わないと、正確に交換部品を判断する事が相当困難である事が理由であるのは、想像に難くありません。

    次は他社でも要交換部品となっていたリューズチューブのチェックです。
    既に緑青が発生して腐食が進行しており、誰が見ても交換が必要である事がわかります。

    ロレックス チューブ 交換

    むしろ確実に判断しておかないといけなのは、チューブよりもリューズ本体の交換の有無です。
    リューズの価格はここ数年で大変高騰しているため、リューズ交換の有無は見積もり価格に大きく影響します。

    概算見積りの段階でリューズ交換は不要であると予想しておりましたが、ねじ込みが浅くなっていたり、針回しやゼンマイ手巻き不可能となる定番のトラブル個所以外にもリューズ交換の有無を見極めるチェックポイントがありますので、一歩踏み込んでその点も確認しておく必要があります

    お預かりの段階で既にリューズねじ込みが完全に不可能な場合は、チューブ交換だけを行って若干ねじ込みが可能となったとしても、間もなく再びねじ込み不良や防水不良が発生しますから、かなりの確率でリューズ交換が必要となります。

    リューズ交換まで見積もりに加えるかどうかは、裏蓋を開封したこの状態を見れば一目瞭然です。

    ロレックス ローター

    リューズチューブがこれだけ腐食していて外装部には汚れやサビが発生していても、内部機械がこの状態であれば、お預かりの段階でリューズの防水/気密性は失われていなかったと推測されますので、リューズ交換までは不要と判断する事が可能です。

    次は他社で2点交換必要とされた歯車のチェックです。
    このcal3035は2番、3番歯車軸の磨耗が多発しますが、裏蓋を開封しただけでは交換の有無を見極める事は困難です。

    そこで今回はより正確な見積もりを行うため、画像のように自動巻きローター部、歯車輪列受けまで外しました。(画像は同型機械のGMTマスター)

    ロレックス 見積もり

    見積もりの際、裏蓋を開ける業者も多くなってきましたが、ここまで分解して点検するところは、そう多く無いと思います。

    当社では、店頭にお客さんが持参して来た場合でも、その場でここまで分解するのは珍しくありません。
    ここまでの分解→点検→組立なら10分くらいで終える事ができます。
    修理を外注に出しておりますと最低数日は必要です。
    当社は見積もりでお待たせいたしません。

    他社で要交換と判断された2番、3番歯車ですが、酸化して変質したオイルが軸に固着していて、わずかな線状の摩耗傷(赤丸部分)はあったものの、顕著な変形は無く、旋盤による研磨で画像のように除去/修正可能でした。

    ロレックス 歯車 磨耗

    ロレックス 3番歯車 交換

    この作業に使用する旋盤が大変高価なうえ、旋盤の取扱いに習熟していないと作業そのものが難しいのです。
    他社では旋盤を所有していないために固着が除去できず、歯車交換という見積もりになったのかもしれません。

    次はローター芯のチェックです。
    自動巻き動作の要となるローター(おもり)の重量を受け止める動作軸となる部品ですから、オイル切れを起こすと摩耗が劇的に進行し、ローターとムーブメント(内部機械)外周縁が接触して画像のようにムーブメント外周が削れて真鍮地肌が剥き出しとなってしまう事さえあります。(画像は後継ムーブのcal.3135)

    ロレックス ローター 交換

    ロレックス ローター芯 交換

    このサブマリーナの場合、ローターの接触までは発生していなかったのですが、ローターには若干のガタつきがあり、このまま使用し続けるとローター芯や受け軸の緩み、脱落が発生する恐れがあります。

    ではやはりローター芯は交換となるのでしょうか!?
    しかしローター芯の交換は極力避けたい理由があるのです。

    ローター芯は外周部分を叩き潰す(=俗にカシメる、といいます)ことによってローター本体に固定されています。
    取り外す際はこのカシメ部分を半ば強制的に打ち抜いてやります。

    磨耗したローター芯を除去するためにカシメ部を打ち抜くと、当然ローター本体の取り付け穴が歪みます。
    画像はローター芯を打ち抜いたところですが、取り付け穴周辺がいびつに歪んでいるのが確認できます。

    ロレックス ローター芯 

    交換の度に穴が歪みカシメ効果が弱まるため、ローター芯の交換は1~2回が限度といえるでしょう

    今回のケースでは前記事画像のようなムーブメント地肌を削ってしまうような激しいローター芯磨耗は発生しておらず、僅かなガタつきはあるものの、何ら対策をしなくとも数年は問題なく動作するため見過ごされがちな箇所です。

    しかし僅かでもガタがあると年数を経るに従って磨耗が進行しますので、ここは今のうちに対策を施すのが賢明な処置です。
    このcal.3035は今回のようなレベルの磨耗ですと、ローター芯を交換せずにガタを解消させる方法が存在するのです。

    cal.3035のローター軸は画像のようなクワ形クリップで軸受け部に固定されています。

    ロレックス ジェネリック部品

    ロレックス ロータークリップ

    このクリップはクワ形部が弾性でローター軸の直径よりわずかに拡がる事により、時計の部品としては桁違いの重量であるローター本体を固定するという構造です。

    軸が磨耗するとガタが発生するだけでなく、クリップが外れてローターそのものが脱落する事すらあります。

    このロータークリップは直径1.5mm前後と小さいうえ厚みも薄く、緩いとローター脱落、狭いとクリップそのものが割れるという厄介な構造です。
    しかしこの厄介な特性ゆえ、ローター軸本体を交換せずに対処することが可能なのです。

    18.この部品番号5066のロータークリップですが、厚さ0.135~0.180mmまで0.15mm刻みで4種類存在します。
    私もcal.3035のパーツリストを見るまで知りませんでした。

    ロレックス パーツリスト

    ロレックス 部品表

    元々は製造/組立て時の公差によるガタつきを解消するためと思われますが、新品出荷時は5066か5066-1あたりが多く使用されているようです。

    そこで摩耗によってわずかにローター軸にガタがある場合、厚みのある5066-2か3を使用すれば良いのです。

    もちろん5066-3でもガタが解消できないような摩耗の場合はローター軸の交換が必要となります。

    ここで活躍するのが当社お得意の社外(非純正、ジェネリック)部品です。
    価格はおよそ純正部品の半額以下といったところでしょうか。
    入荷が不安定な純正部品ですと、5066-0から3まで4種類を常時取り揃えておくのが難しい場合もあるのですが、社外品ですと余裕を持って安定した数量を在庫しておくことが可能です。

    ロレックス 社外製部品

    いい事ずくめのように思える社外部品ですが、デメリットも確実に存在します。

    製造ロットなどによりややサイズにバラつきがあるため、5066-0.5や1.5に相当する厚さのものや、クワ形部が明らかに狭かったり広かったりするものが混じっている事もあるのです。

    厚さ違いはローター軸の磨耗程度によっては逆にジャストフィットとなり得ることもあるのですが、クワ形が狭いと組み込み時にクリップが割れてしまったり、逆に広いとローター脱落など、納品後に重要な不具合が発生する原因となります。

    最終的にはローター軸に組み込む際の感触や、ローターにガタや回転抵抗が発生していないかといった判別や確認が必要となります。

    こういった確実な”見極め”が出来ないと、ロータークリップに限らず社外部品を使用するのはリスクが伴います。

    次は文字盤と針に重大なダメージを与える原因となったガラスパッキンの交換です。
    画像では、黒いゴム製パッキンの他、ガラスと固定枠の間に白いテフロン製のパッキンが介在している事が確認できます。

    ロレックス パッキン 変形

    今回の事例では文字盤と針に湿気の混入による顕著な腐食/劣化があったことから、このテフロンパッキンの交換まで必要と判断しました。

    しかし、このテフロンパッキンはサファイヤガラスとセットでないと供給されていない部品なのです。

    ガラスにはほとんど傷が無い良好な状態ですが、高価なガラス交換まで必要となってしまうのでしょうか・・

    いいえ、当社ではそんな事はありません!

    もう展開が読めている方もおられそうですが、社外品ではガラスパッキンが単体で販売されているのです。

    ロレックス ガラスパッキンロレックス ガラスパッキン交換

    ただし、話はそう簡単ではありません。
    やはり社外品あるあるで品質やサイズにバラつきがあるのです。

    品質はいくつか存在する製造元によっても異なり、とても合格する基準に達していなかったものもありましたし、合格メーカーの同一ロットであってもサイズにわずかな個体差があったりします。

    もっとも厄介なのは”微妙にサイズが小さい”場合で、一見何ら問題なく交換可能なのですが、ガラスパッキンはガラス、固定枠両方を保持する役割もありますので、納品後~数年の間に固定枠とベゼルがまとめて脱落する恐れがあるのです。

    さらには防水(気密)性が回復できないことが多いので、外見の面では全く問題が無くとも、精度の高い防水試験機で検査すると気密不良と診断されるのです。

    湿気の混入による文字盤と針の腐食/劣化防止がガラスパッキン交換の目的ですから、これでは交換する意味がありません。
    高精度な防水試験機が無いと、この問題が見落とされがちなままオーバーホールが行われる事もあるようです。

    これでやっと見積もりが出せます。
    記事ですとかなりの長文となってしまいましたが、実際に見積もりにかかる時間はここまで見極めても正味30分程度です。
    見積もりは以下の通りです。

    オーバーホール ¥32,400
    ゼンマイ ¥3,780
    歯車芯研磨×3 ¥8,100
    ロータークリップ(社外品)¥2,160
    リューズチューブ(社外品)¥4,320
    ガラスパッキン(社外品) ¥3,240
    合計 ¥54,000(税込)

    結局、メールの段階でお伝えした概算見積り金額(¥54,000~¥64,800)の最安値で済みました。

    磨耗した香箱受け板をそのままにするという、当社では行わない対処でも他社の見積もりでは¥90,000オーバーでしたので、これでは安すぎて逆に信用を下げてしまわないかと一抹の不安を抱きましたが、これ以上も以下も無いという見積もりを自信を持ってお客様へお伝えしました。

    そしてご連絡をさし上げてすぐに見積もり了承、作業進行の返信がありました。

    まずはすっかり腐食/磨耗したリューズチューブの交換です。
    リューズとチューブはお互いのねじ山が噛み合う”2つでひとつ”のような部品のため、両方とも交換するのが理想なのですが、現在リューズの価格が高騰している事もあり、チューブのみの交換で対処します。

    ロレックス リューズ 腐食

    しつこいようですが、ここでも社外品を有効に活用します。
    雄ネジのチューブほどではありませんが元のリューズもねじ山が若干磨耗しているため、新品純正チューブとの相性が最良とはいえないのです。

    中古リューズとの相性を想定して意図的なのか製造誤差によるものか分かりませんが、ここではごくわずかネジ山の径が大きい社外品チューブを使用します。

    ロレックス リューズチューブ交換

    チューブと本体ケースとの固定も適切なパッキン、充填/接着剤を使用しないと気密不良が発生し、内部オイルの酸化/変質を促進させるだけでなく、内部部品のサビなどの原因となります。

    社外品の使用は作業者へ部品選定の見極めが求められます。

    本体ケース/裏蓋に発生したサビを除去すると、その部分が凹んだようになり、ゴムパッキンとの隙間が生じて防水/気密性が失われます。

    そこで、凹みが生じた箇所にエポキシ接着剤を充填して隙間を埋める処置を施します。

    ロレックス 防水

    ロレックス 防水テスト

    これは防水性能を復活させるというよりも、今回交換するリューズチューブとガラスパッキンの気密性が確保されているかを確実に検証する意味合いのほうが強いのです。

    チューブとガラスパッキンの気密性が良好であってもケース/裏蓋間に漏洩箇所があると、防水検査器では一律に”不良”と判定されるため、どの箇所がNGなのかを特定するのが難しいというのがその理由です。

    不良箇所を特定する機器もあるのですが、検査には非常に手間がかかるうえ、漏洩箇所の判定もやや曖昧なものとならざるをえないという難点があるため、この段階で凹みを塞いでおくほうが賢明なのです。

    きつくても緩くてもNGなのがガラスの固定です。

    ロレックス ベゼル 交換

    ロレックス ベゼル 工具

    画像のような万力に似た道具でガラス固定枠(ベゼル)を押し込んでやるのですが、ガラス固定枠の圧力によってテフロンパッキンが弾力で収縮する事で枠の固定と気密性を両立させるという構造です。

    パッキンの径が大きいときは固定枠が途中で押し込めなくなりますが、緩い場合は一見何ら問題なく押し込めてしまうので、そのまま問題を見過ごしがちです。

    この点は”万力のハンドルを締めてゆくときの摩擦感触”で判断します。

    防水検査器を用いてガラス装着後に気密試験を行うと、この際のハンドルの感触で”緩くて気密不良になる軽さ”と”気密性確保可能な適度な摩擦感”の違いを装着時にほぼ判別できるようになります。

    この他万力に装着する受け、押しコマのサイズ選択、テフロンパッキンにシリコングリスを塗布する方法など、ガラスの装着には文章や言葉で表現しにくいノウハウが必要とされます。

    中でも難しいのが、万力にセットする前にベゼル/固定枠をパッキン上部へ載せた段階でわずかでも傾いていないかどうかを確実に見極めておく事で、この点が適切でないと万力の圧力でベゼル、パッキン、ガラス全てを破損させてしまう恐れもあります。

    ロレックス ガラス ベゼル

    本体ケース気密/防水に関係する部品交換と加工が終了したら、このWITSCHI製 減圧・加圧(-0.8気圧~10気圧)式防水検査器でテストします。

    ロレックス 防水 試験器

    ロレックス 防水検査

    このテストを行わないと、ガラスパッキンやリューズチューブの気密性不良を見過ごし、文字盤/針の劣化や内部オイルの劣化促進を招きます

    国内ではメーカー直系の正規代理店以外で減圧状態での検査が可能な防水検査器を採用しているところは、ごく少数です。

    ”-0.8bar”と表示されていて、検査器内部が減圧状況下にあることがわかります。
    ではなぜ減圧状態での検査が必要なのでしょうか?

    50年以上前より、空気圧を高めた後に時計ケースを水中に沈めることによって、防水性を検証する試験器がありましたが、検査のたびに内部の機械を時計から外さなければならない煩わしさや、防水性の正確な判定が難しいなどの欠点がありました。 

    その後、コンプレッサーによる高圧空気を利用する密閉カプセル式の加圧型防水試験器が登場し、防水検査の精度向上と検査時間の大幅な短縮を実現しました。

    しかし、この加圧型にも大きな問題があります。
    防水不良があった場合に高圧空気が時計ケースの内部に侵入し、検査終了と同時に減圧された際に一部の時計で内部からの圧力によりガラスが押し出され、文字盤や針を損傷させるという事故が発生するのです。

    こういった問題を解決したのが、この減圧検査が可能なWITSCHI製防水検査器です。
    加圧する前に減圧して気密性を検査し、不良があった場合はすぐに検査を中止するので、文字盤や針を破損させる恐れがありません。

    故人の形見の時計などは、文字盤交換となる事故は絶対に避けなければなりませんが、この減圧式防水検査器は大変高価なため、導入している会社はごくわずかです。

    こういった設備投資のため、弊社が格安でのオーバーホールを行えない事情もご理解いただければ幸いです。

    全ての作業と検査が終了し、お客様へ発送のお知らせとともに以下の事をお伝えします。

    「汗や湿気による内部オイルの劣化の進行およびブレスレット、本体ケースの経年劣化が見受けられました。防水/気密試験には合格しましたが、あくまで検査時点での結果であってこの状態をいつまで維持できるかは不明です。

    湿気や汗の影響を受けやすくなっておりますので、今後は6~9月のご使用は出来る限りお控えいただく事が寿命の延長につながります。」

    これはオーバーホールをしたとしても、決して”新品の状態に戻った”という事では無いからです。
    特にエポキシ接着剤で充填した箇所の耐久性は正直なところ未知数なのです。

    これは人間に例えると、中~高齢者が退院してきてひとまず健康体になってはいるものの、決して二十歳の肉体を取り戻したという事ではなく、今後同じ状況に陥らないよう生活習慣への注意、改善が不可欠であるのと似たものといえるでしょうか。  

    個々の時計の状態を確実に把握することで、これまでの使用状況を推測し、使用者への申し送りを行ってその後の再修理や同じトラブルの発生を防止するという点は、メーカー/正規代理店に対する当社の利点であるといささか自負しております。

    ロレックス サブマリーナ オーバーホール

    時計を発送後、間もなくお客様から以下のようなメールをいただきました。
    こういったご感想をいただけると、お客様のお人柄が見えない他社からの下請けではなく、お客様と直接やり取りをする営業形態で良かった、と思う次第です。

    時計修理工房(有)友輝 様

    大友様
    時計無事に届きました。ありがとうございました。
    親切に対応して頂けたので、安心して依頼することが出来ました。
    出来上がりも、細かな傷なども消えとても綺麗になってます。
    本体も1年保障を頂き、嬉しく思います。
    大切に使っていきたいと思います。
    また、5年後よろしくお願い致します。
    デイトジャストも所有しておりますので、そちらも今度お願いしたいと思っております。