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ロレックス オーバーホール 修理 (有)友輝 全国配送対応
時計修理工房(有)友輝
ロレックス GMTマスターRef.1675 オーバーホール
ROLEX GMT-MASTER Ref.1675 オーバーホール
当社に於いて2020年度高額工賃No.1となったGMTマスターRef.1675です。
30年以上前に不動状態となってから譲り受けたとの事で、最後の使用状況は不明ですがかなり湿気/水分の混入があった事がうかがえます。
しかしながらお問い合わせの段階で修理は可能と判断しお引き受けした次第です。
さて、内部はどんな状態になっているやら・・
このRef.1675GMTマスターには1970年代の標準仕様だった通称”巻ブレス”が装着されています。
ステンレスの板材を折り曲げて巻き込んだように整形されている事からそのように呼ばれています。
耐久性に乏しいためステンレス無垢材で構成されている’80年代以降のブレスと交換されている事が多いのですが、この個体は早い段階で停止したまま放置されたため、貴重な巻ブレスが延びの少ない良好な状態で現存しています。
こういったサビが発生している時計の場合、長年の使用に伴ない、汗による腐食が発生して裏蓋が固着し容易に開封できなくなる事があるのですが、幸いにして裏蓋は無事に開封する事が出来ました。
巻き芯が完全に腐食してリューズが脱落した事を考慮すると、リューズ周りから浸水したためその周辺のサビが特に激しく、その他にも内部のいたるところでサビを発生させた事がわかります。
リューズ部分の拡大画像です。
これを見ただけでリューズ+巻き芯が無事に抜ける可能性は低い事が予想できるのですが、暗澹たる気持ちでリューズを引いたところ、悪い予測通りケース内部に巻き芯が折れ込んだ状態となってリューズが脱落しました。
こうなると”作業継続不能”として即返却する業者も珍しくないほど致命的な問題が発生するのです。
ロレックスの場合、ムーブメント(内部機械)を取り出すには巻き芯を抜き、外周部に二つあるムーブメント固定ネジを解除するという2段階の作業が必須となります。
しかしながらこの個体の場合、第2段階であるムーブメント固定ネジのサビが激しく、回す事すら不可能です。
さらに画像ではわかりにくいのですが、巻芯が錆びついてムーブメントに固着した状態で残留しており、仮に固定ネジが回せたとしても、ムーブメント外周部に一部飛び出した状態で残った巻き芯がつかえてしまい、ムーブメントの取り出しが出来ない状況です。
これまでどちらか一方がこのような状態となっていた事はありましたが、2か所同時にというのは初めての経験です。
このため、このどちらかがサビで固着している場合、その時点で作業を断念する業者も多いようです。
さて、どうしようか・・
ムーブメント固定ネジは頭頂部を鉄筆状のケガキ針でサビを引っ掻いて強制的に削り落としてやる事で固着を解除します。
巻き芯は先端にダイヤモンド粒子が貼りつけられた研磨棒をリューターにセットし、飛び出た先端を削ります。
いずれの方法もネジと巻き芯以外の個所を削ってしまわないよう、慎重に作業を行う必要があります。
そうしてなんとか無事に内部機械を取り出す事に成功しました。
しかしこの後はサビついて固着した巻き芯と固定ネジを除去しなければならず、こちらのほうがより難題です・・
取り出しには成功しましたが、GMT(24時間針)の夜光塗料が抜け落ち、1時40分付近に新たなインデックスが形成されちゃってます・・
このあたりの処置は後回しにするとして、まずは文字盤が外せるかどうかが一大焦点になります。
こういった時計の場合、極小の文字盤固定ネジがサビて固着している事も多く、そのため通常の方法では文字盤の取り外しが出来なくなり、分解作業がそこから進めなくなってしまうのです。
文字盤固定ネジ固着の為、これまで他社では作業の進行は不可能と判断されて返却された時計をいくつかオーバーホール完了まで手がけてきましたが、ネジの除去には大変な手間がかかります。
恐る恐るムーブメント側面を覗いたところ、文字盤固定ネジは左右とも固着は無く無事でした!
針と文字盤を外すと隠れていたカレンダー盤の4~7日表記部でプリントかすれが生じていましたが、以下の条件を考慮して今回はそのままとする事にしました。
●カレンダー盤交換は非常に高価
●一度塗装を剥離して写真製版による再プリントは文字盤カレンダー枠に対してズレが生じやすくなるうえ、塗装面の厚さがオリジナルと異なるためカレンダー送りに不具合が起きやすい。(社外製代替部品の使用も同様)
●エナメル塗料でかすれた個所をなぞると不自然な感じとなる。
●カレンダー早送りの装備されていない機種という事もあり、今後はカレンダーを合わせて使用する機会は少なくなる。
サビによる部品の固着は以下の3か所です
●巻き芯
●ムーブメント固定ネジ
●筒カナ
この中で分針の付く筒カナは大きな問題無く取り外しできましたので、サビ除去を慎重に行う事によって問題無く再使用可能です。
残りの巻き芯と固定ネジは通常の工具/方法ですと全く取り外しができません。
除去方法は3通りほど思いつくのですが、どれも一長一短あり、どう選択したらよいのか悩みます。
サビで固着したネジ抜きには以下のような方法が考えられます。
1.タガネ等で強制的に打ち抜く
2.極小ドリルでネジおよび巻き芯の固着部を削り取る
3.地板の真鍮には影響しないがネジ、巻き芯の材質であるスチールを溶かす薬品を使用する
4.熱を加えてサビと固着を解除する
しかしながらどの方法もデメリットがあります。
1.は、ねじ山を潰す事必至なうえ、打ち抜けなかった際は周辺部に深刻な歪みを生じさせる事もあります
2.はムーブメント固定ネジには有効なのですが、より長い巻き芯に対しては大変な労苦が伴う
3.は表面メッキなどへの影響が皆無とは思えない
4.は熱によって地板素材である真鍮の軟化を招く恐れがある
※先達からラードの中で煮る、醤油に漬けて完全に腐食させてから除去するという方法を教わったことがありますが、残念ながら試した経験がありません。
様々な要素を考慮の上、4.の方法を選択する事にしましたが、真鍮の軟化温度に達しないようにしなければなりません。
真鍮の塑性変化(軟化)を防ぐためにはガスバーナーではなく、より低温の炎が出るアルコールランプを使用します。
さらにネジからすぐ内側の個所にピンセットを挟んで熱が逃げるようにしたうえで最も低温となる炎の下側で固着したネジおよび巻き芯を炙るようにします。
最近の小学生は事故を防ぐために理科実験でもバーナーを使用するそうですが、わざわざ低温の炎が必要な場面なんて遭遇しないでしょうしね。
逆にバーナーなど無い時代にネジやスチール部品の硬度を変化させる焼き入れ/焼き戻し加工にはアルコールランプと共に”火吹き”と呼ばれるフイゴに近い道具を使用していたのですが、これについては別の機会に。
焼いた後の機械固定ネジです。
周辺のメッキが変色していないので、地板の塑性変化は免れていると思われます。
ネジの頭がわずかに残っているので、この部分をピンセットで挟んで回す事にトライします。
ピンセットは細いと挟んで回す力に耐えられず、太いとネジを挟む事が出来ないのでそのあたりを巧く調整したピンセットを用意します。
このピンセットの調整、選択はなかなか難しいものがあります。
小さくなったネジの頭をピンセットで掴み、少しづつ回してゆきます。
ここでネジ頭が外れたり粉砕されたりすると悲劇なのですが、ねじ山、地板ともに損傷する事無く無事に除去する事が出来ました
ネジの加熱と同時に巻き芯部にも熱が伝わっていたので、巻き芯は労せずに抜く事が出来ました。
巻芯と機械固定ネジを除去した箇所はサビが変化した酸化鉄がこびりついていたり、わずかな変色が発生しています。
それを取り除き、更に研磨剤を使用して出来る限り平滑さを回復させる作業を行う必要がありますが、ここで注意したいのは適切な研磨剤と作業方法を選択しないとメッキの剥離だけでなく地板の摩耗を引き起こす可能性すらあります。
以上の点に留意しつつ、なんとか画像のような状態まで回復させる事が出来ました。
次に剥離して文字盤に固着した24時間針の夜光塗料の除去と、色が合っていない長針と秒針の夜光塗料再塗付を行います
これらのパウダーを何種類も混ぜて他の針と合った夜光の色を作成するのは何よりも経験が物をいいますが、私の場合は時計修理よりもよっぽど経験が豊富なプラモデル塗装の技術が活きてきます。
パウダーをブレンドし、出来上がったのがこの色です。
焼けた色に合わせてパウダーをブレンドするのは、色味によって配合率が変わってきますので、経験とセンスによって行うしかないのですが、一つだけコツをお伝えしましょう。
それは、”迷ったら薄めに”ということです。
色味が濃いと、周りとの相違が一発でわかってしまうのですが、薄いと目立ちにくく溶け込み易いのです。
もちろんそれにも程度というものがありますので、あまり薄いと違和感ありますけどね
このパウダーを溶剤とブレンドして針の裏から均一に塗布するのですが、剥離しきっておらず部分的にひび割れの生じた夜光塗料の場合、隙間はもちろん全体に染み渡るので、古い塗料の剥離や脱落も防止することができます。
夜光塗料の再塗付に関しては、あくまで剥離/脱落防止のために行う作業であり、経年劣化の風合いを考慮した”色合わせ”を目的としたものでは無い事をご了承ください。
そのため夜光の色合い/色調に関しては全てノークレームでお任せいただく事になります。
また作業可能なのは針だけで、文字盤への塗布は原則不可能です。
文字盤に付着した夜光塗料を慎重に除去し、ブレンドしたパウダーを塗布してこの状態になりました。
比較しやすいよう、修復前と修復後の文字盤画像を並べてみました。
次は汚れが蓄積し、サビが発生した本体ケース、ベゼルの清掃です。
かつてはオーバーホールの際に外装はノータッチという業者も多く、この時代の時計は永年の使用でサビや汚れの蓄積が凄まじい事も珍しくありませんが、内部に湿気が侵入して早期に使用を中止したせいで使用期間が短かったためか、年式の割にはこれでも比較的きれいな状態です。
超音波洗浄、サビ除去を行い、リューズとケースチューブを交換した後、お色直しを施した文字盤+針をセット。
作業前に予想したより良好な状態になりました。
内部機械は意外なほどダメージが少なく、サビついて除去した巻き芯と固定ネジを交換し、オーバーホールを施すとほぼ新品時に近い性能と外観を回復する事が出来ました。
裏蓋の刻印から1971年頃の製造と思われます。
この年代のロレックスは裏蓋内側の縁部分に汗の影響によるサビが発生している事が少なくありませんが、この個体は全くサビの痕跡がありません。
この点からも湿気が混入して停止したために、腕に装着していた期間が短かった事がうかがえます。
最終的に風防交換を行ってこのような姿となり、当社では全体の1%以下である10万円を超える高額修理となりましたが、納品後にお客様からは以下のようなメールをいただきました。
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時計は先日確かに受領いたしました。
急に仕事が立て込んでしまい連絡が出来ず申し訳ありません。
何十年ぶりかに動いた秒針を見て、色々と思い出したり考えたりしました。
ご案内いただきました取り扱い方法を注意しながらこれから大切にします。
また何かありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
この度はありがとうございました。
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発送と同時にお知らせした注意点は以下の通りです。
汗や湿気による内部オイルの劣化の進行およびブレスレット、本体ケースの経年劣化が見受けられました。
湿気や汗の影響を受けやすくなっておりますので、今後は汗や湿気の影響が大きい6?9月のご使用は出来る限りお控えいただく事が寿命の延長につながります。
カレンダーの早送りが装備されていない時代の時計ですので、カレンダーを合わせる場合は針を回すしかなく、最大15日分の針を回す事となります。(針を逆に回して、カレンダーも逆に戻すのは何ら問題ございません)
針の早回しを数多く行いますと、時計の内部部品が磨耗する事もありますので、カレンダー合わせのための早回しは出来る限りお避けください。
カレンダーは合わせずに時折稼働させる事をお奨めいたします
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