本文へスキップ

ロレックス オーバーホール 修理 (有)友輝 全国配送対応

ロレックス ミルガウス Ref.116400 オーバーホール 

  • Ref.116400ミルガウスのオーバーホールのお問い合わせがありました。
    お客様からの申し出のうち、気になった点は他社で社外品ガラスに交換した修理履歴があった事です

    ロレックス ミルガウス

    この画像はお客様から添付していただいた画像そのものですが、ガラス交換後も4年間問題無く動作していたとの事で、ガラス交換は適切な作業が行われたのだろう、と安心してしまい、この画像からもうかがい知れた大きな問題を概算見積りの段階で見落としてしまっていたのです。

    ミルガウス リューズ

    他社で社外品ガラスに交換されたというミルガウスの拡大画像です。

    間に介在して圧力によってガラスとベゼルを固定しつつ防水/気密性を確保する構造となっているガラスパッキンの2時から4時位置に大きな隙間が生じているのが確認できます。

    これではもはや防水性が確保できないというレベルではなく、大気中の湿気ですら常に内部へ浸透することになり、オイルの劣化による部品の摩耗やサビの原因となるだけでなく、文字盤の変色や塗装剥離といった所有者には耐えがたい問題を生じさせます。

    お客様からの画像でもこの隙間が見て取れるのですが、まさかそんな初歩的ミスともいえる作業は行われていないだろうという先入観があった事に加え、文字盤の変色や劣化は見られず、4年間問題なく動作していたという点でオイルの劣化やサビの発生は無いと判断し、この隙間を完全に見落としてしまいました。

    高精度な防水検査機を用いる事でガラスパッキンに起因するわずかな防水/気密不良が発見できる場合がありますが、これはそれ以前のベゼルを装着した後の外見だけで判別可能な問題です。

    ミルガウス ガラス

    こういう作業が行われた時計は、他にも不具合がないかどうか、あらゆる点を疑ってチェックする必要があります。

    画像ではわかりにくいのですが、ベゼルより高い位置にあるはずのガラス表面が一段低くセットされており、ベゼルより下になっています・・

    これはガラスが薄いのではなく、ガラスパッキンの高さが足りないのです。
    ガラス面が低い場合の問題としては、見栄えの点でマイナスとなるのは勿論ですが、より深刻なのは機能面で重大な不具合が発生する事です。

    ちょっと見えにくいのですが、下の画像ではガラス面が低くなったせいで”SUPERLATIVE CHRONOMETER”表記内側、5〜10時のあたりで特徴あるイナズマ型秒針がガラス内面と接触した痕がついているのがわかります。

    ロレックス ミルガウス 針

    こうなると当然”時計は停止しないの?”という疑問を抱かれるかと思いますが、サファイヤガラス表面はとても平滑なため、接触がわずかである場合は抵抗も少なく、一見異状なく動作してしまう場合もあるのです。

    しかしながらデジタル式の精度測定器を用いれば、秒針が接触している5〜10時の位置に来た時だけ、テンプ(振り子時計の振り子に相当する部品)の動作角度が落ちる事が判別可能です。

    この程度の接触ですと一日あたり分単位での精度不良は発生しなかった可能性もありますが、ゼンマイ巻き上げが少なくなったとき停止するといったように、動作持続時間が10〜20%程度短くなっていたかもしれません。

    前回作業したところでは、オーバーホールを伴わないガラス交換だけの修理だったため、”動作に関しては保証せず”として、精度や持続時間のチェックを行っていなかった、またはデジタル測定器での測定までは行っておらず、秒針の接触を見逃した可能性があります。

    こういった問題もあるため、当社ではオーバーホールを伴わない作業の受付はお断りしている次第です。

    ミルガウス 裏蓋

    こうなるとあらゆる箇所について不適切な作業が無かったかを疑う必要があります。

    過去の汎用ガラス交換にあたっては内部の機械を取り出して行ったと思われますが、開封工具に対して時計本体が傾いていたり、中心に固定されていなかったりしたせいか、工具とかみ合う裏蓋のローレット(ギザギザ)部に無数の傷が刻み込まれています。

    さらに使用した工具そのものの品質が高くないなどの問題があったのかもしれません。

    こういった不適切な開封作業が行われた時計は本体ケースと裏蓋のネジ山が損傷している事があり、一度や二度くらいは問題なく開閉できても、その後少しづつカジり始めて開閉が困難となってゆき、最終的には裏蓋を閉めることが出来なくなり、メーカーでは大変高価な本体ケースと裏蓋交換必須となる場合もあります。

    さらに最悪の事態としては開封不可能でにっちもさっちもいかなくなり、どんな作業も不可能となってしまう事態も考えられます。

    裏蓋のネジ山が傷んでいると、開封途中でスムーズに回せなかったり引っかかるような感触があるのですが、こういった状態の個体には珍しく、奇跡的にネジ山のダメージはありませんでした。

    Ref.116400ミルガウスは裏蓋を開封すると画像のような状態となります。

    116400 裏蓋 開封

    裏蓋in裏蓋という感じで、私も初めて開封した際には面喰らいましたが、この”→B”と刻印されているのは鋳鉄製で磁気を遮断する殻のような構造となっており、裏蓋とは直径とギザギザのピッチが同一ですので、同じネジ式の構造となっていて、同様の工具を用いて開封するという事が容易に想像できます。

    しかし、ここでまたもや目を疑うような状態となっていたのです。

    ROLEX MILGAUSS 傷 

    裏蓋を開封すると、本体ケース裏側2時から5時位置にかけて、強くぶつけた際に変形したような凹み状の跡が9か所もあったのです。

    ロレックスで使用されている鍛造ステンレスにこれだけの凹みを発生させるには、相当の圧力/衝撃が必要です。

    通常使用している限りあまりぶつけたりする個所ではありませんし、時計を落下させたりした場合でも、この位置に9か所というのは理解に苦しむ多さです。
    このRef.116400ミルガウスにいったい何があったのでしょうか??

    推測の域を出ない考察ではありますが、これはおそらく内側の耐磁殻がねじ込み式である事に気づかず、摩擦と金属張力で固定されているスナップ式と勘違いして、ケース外周部をテコの支点にしてスナップ用工具を無理矢理差し込もうとしたからではないでしょうか。

    更に悪い事に一回でその間違いに気づけばよいものを、開かないからと力任せに繰り返し同じ行為を行ったものと思われます。

    オープナー 裏蓋

    スナップ式裏蓋用工具は画像のようなもので、先がナイフ状に薄くなっており、ケースと裏蓋の隙間に差し込む事で開封するものですので、必要以上の力を加える事はケース/裏蓋の破損につながります。

    裏蓋 開封

    スナップ式裏蓋には画像のように工具を差し込む隙間が設けられている事が多かったのですが、近年のケース/裏蓋は防水・気密性を高めるためか、この隙間が存在せず、工具を差し込むのにかなりのコツと力が必要なものも増えています。
    だからといって、ステンレスが変形するような力をかけてはいけません。

    百歩譲って1回ならともかく、これだけ多くの変形跡がつくまで気づかないのはやはり問題です。
    ガラスの交換は裏蓋を開封しなくとも可能な場合もあるので、もしかすると対磁殻の開封は断念してガラス交換を行ったのかもしれません。

    こういった場合、裏蓋も変形していて後に正しい方法(ねじ込み)で開封できても、その後のねじ込みが困難となったり、ねじ山が変形したせいで1回の開閉くらいは出来ても、開閉を繰り返すうちにねじ山の変形が進行し、最悪の場合開封が不可能となる事もあります。

    適切な工具を用いて当社で開封したところ、幸いにしてネジ山の変形は無かったので今後の開閉に影響は無さそうでした。

    116400 対磁殻 ミルガウス

    ロレックス ミルガウス 対磁殻

    ミルガウスは文字盤側も耐磁構造になっており、文字盤を外すと表面/サイド部をまでカバーする耐磁板で覆われていて、4、10時位置のネジを外すとエクスプローラーTなどと同様の機械が現れます。

    ミルガウス 文字盤裏 帯磁

    ロレックス 磁気帯 ミルガウス

    時計に組み込まれた状態では先述の裏蓋に似たカバーと文字盤側のカバーが一体化し、内部の機械を覆う耐磁殻が形成される事がわかります。

    旋盤 ロレックス 傷取

    本体ケース裏側の凹みは画像のように旋盤で凹みを出来るだけ目立たなくなるような作業を施した後、適合するガラスとパッキンも入手したので、そちらに交換しようとしたところ大問題発生。

    不適切な工具と方法で脱着され、サイズの合わないガラスに対して無理に押し込んだせいか、ベゼル本体が変形し、正確なサイズのガラスとパッキンは既に装着できない状態となっていたのです。

    こうなると当社での作業は断念し、日本ロレックスに依頼するのが無難となるのですが、前述のように本体ケースにもダメージを加えられた状態であるため、メーカーでは本体外装一式交換必須となる可能性が高いのです。
    正確にはわかりませんが、ミルガウスで本体ケース交換となると数十万円以上は確実なのではないでしょうか。

    さらにこのようにあからさまに不適切な作業をされた個体の場合、日本ロレックスでも作業を受け付けてもらえない可能性すらあります。

    ロレックス ミルガウス ベゼル

    ロレックス ミルガウス 116400

    対処方法について様々な検討をした結果、最善と思われる方法をお客様にもお伝えし、作業進行の許諾をいただきまして画像のような状態で無事に納品する事が出来ました。

    色々な事情があり、作業の詳細をここで記すことは出来ないのですが、ガラスやパッキンのサイズ変更無しで、傷や歪みは一切無く、防水気密性も全く問題無い状態のベゼルを装着する事ができました。

    このミルガウスはなんとかここまで修復できましたが、一度不適切な作業が行われた時計は元の完全な状態に戻すことは不可能となる事も少なくありません。

    このような不幸な時計が無くなる日を切に願っております