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ロレックス オーバーホール  修理(有)友輝 全国配送対応

ロレックス オーバーホール用 洗浄機の有用性


  • ロレックス 修理

    現代の時計修理/特にロレックスのオーバーホールにおいて欠かせないのが、この超音波自動洗浄機です。

    かつては、時計のオーバーホール(分解掃除)を行う際、完全分解した部品の1つ1つを小さい刷毛を使用してベンジンで洗浄する“手洗い”が主流でした。

    昭和40年代後半に、国産で比較的安価ながら満足できる性能の機種が発売され、日本においても超音波自動洗浄機が普及しました。
    安価と言っても、それはスイス/米国製に比較しての話で、比較的大きな時計店でも月賦で購入するような価格だったそうです。
    そういった事情のせいか、小規模な時計修理店では購入することが出来ず、洗い刷毛/ベンジンでの旧態依然とした洗浄方法が続けられる事となりました。

    現在は国産機種の生産が中止されたため、新規購入の場合、150〜200万円といった高価格の米国/スイス製を購入するしかありません。
    この価格面がネックとなっているせいか、現在でも小規模な修理店では、この洗浄機を使用せず、手洗いによる部品洗浄でオーバーホールが行われている事があります。
    時間と手間さえ惜しまなければ、手洗いでも十分な洗浄が可能と考える時計修理者も多いようです。

    しかし現代の時計において、この自動洗浄機無くして以下の画像のような段階にまで分解した部品の1つ1つを、完全に洗浄してロレックスのオーバーホールをする事は不可能である、というのが当社の考えです。

    ロレックス オーバーホール

    自動洗浄機の効果が発揮される個所の一つとして、ガンギ車部の穴/受石部分が挙げられます。

    ロレックス 穴石

    手洗いの場合の洗浄/注油方法としましては、金色のクワ型のバネを解除し、受石を外して裏の平面部にオイルを載せたら、そのままズレないように(ズレるとオイルが拡散します)穴石の上に被せてバネをセットする、というのが一般的な方法になるかと思います。

    このバネはオイルの蒸発と、衝撃が加わった際にガンギ車が破損する事を防止する役割があるのですが、バネの解除/セットが面倒なのと、バネに金属疲労などが発生していた場合、破損させてしまう可能性があります。

    最新の超音波自動洗浄器と、数十年前に比べて飛躍的に洗浄能力が高まった洗浄液を併用すれば、ほとんどの場合、受石をセットしたままでの完全な洗浄も可能です。
    ただし、酸化して固まってしまった古い油などは洗浄しきれないため、事前にバネ+受石を外して、洗いハケで手洗い洗浄した後に自動洗浄します。

    10倍以上の顕微鏡を使い、宝石用の透過照明を下部から照射すれば、僅かなゴミや洗浄しきれていないことによる石の曇りなどは即座に発見できます。
    自動洗浄も万能ではないので、この顕微鏡による確認が非常に大切な作業となります。
    自動洗浄機のみに頼らず、状態を顕微鏡で確認し、必要とあらば洗い刷毛による手洗いも行えるようにしておく事が重要です。

    完全な洗浄が確認できたら、受けの裏側から穴石の窪みに注油します。

    ロレックス 注油

    そして、もっとも細いオイラーの先を削って尖らせた道具で、ホゾ穴を突付いてやります。
    そうしますと毛細管現象によって画像のように受石との隙間へ綺麗に油が拡がります。
    これを油が適量に拡がるまで2〜3回繰り返します。

    ロレックス 修理

    注油量の目安としては、下の画像のように穴石の窪みの直径と同じくらいです。)

    ロレックス 受石

    ちょっと突付いて油が拡がらない場合は、石の洗浄が不十分だったり、バネのセットが不確実で穴石と受石の隙間が適当でないということです。
    自動洗浄機を使用した場合の、この注油方法は、こういった重要箇所をチェックできる役割もあります。
    また、バネを飛ばすリスクも減りますし、何より作業時間の短縮につながります。

    1950年代中期以降のロレックスは、オーバーホールの際に、自動洗浄機を使用する事を前提として設計されています。
    Cal.1000以降、ロレックスの自動巻きはローターが左右どちらに動いてもゼンマイを巻き上げる両方向巻き上げ方式となり、巻き上げ効率が飛躍的に向上しました。

    ロレックス 自動巻

    その機能をつかさどっているのが、この赤い切換車です。
    切換車はその構造上、自動洗浄機を使用しないと完全な洗浄が難しいのです。

    ロレックス 切換車

    画像は、軸が摩耗したために交換/廃棄する切換車の圧入リングを外してみたところです。
    一旦外してしまうと、圧入リングを再装着する事は難しいので、通常はオーバーホールの際でも分解はしないのですが、リングの下に、一対の天秤状の部品が封印されている事がわかります。

    この部品が完全に洗浄されていないと、巻き上げに不具合が生じ、停止や精度不良、持続時間の不足といった問題が発生します。
    画像のような洗い刷毛(小さなブラシ)を用いる手洗い洗浄ですと、この部分の完全な洗浄は物理的に不可能なのでは無いかと思います。

    ロレックス オーバーホール 洗浄

    特殊な専用洗浄液を使用し、回転による遠心力と超音波で汚れを浮かせる事が可能な自動洗浄機でないと、刷毛の先端が天秤状部品の裏側や隅々にまで達しないので、洗浄が不完全なままとなる恐れがあります。

    近い将来ロレックスのオーバーホールをご検討中の方々へ
    ご依頼される修理業者がメーカー/正規代理店以外の場合、大事な時計を預ける前に、自動洗浄機を用いてオーバーホールしてくれるかどうかを確認してください。

    自動洗浄機は大変高価な機材ですので、これを導入せずに手洗いだけでオーバーホールを行っている業者は少なくありません。
    また、修理受付をする店頭には自動洗浄機が設置されていても、手洗いのみで安価に引き受ける外注業者に丸投げするという例もあります。

    「オーバーホールに要するスピードと効率はともかく、本質的な洗浄効果については手洗いでも十分行うことが可能」と言い切る作業者もおりますが、話を聞くとほとんどの場合は、顕微鏡を使用しての洗浄後の確認は行っていないようです。
    これでは「洗浄できたつもり」になっても、致し方ないかなと思います。

    ロレックス オーバーホール オイル

    画像はサビも含んだ酸化オイルが固着しているところですが、これは非常に判りやすい状態で、実際は半透明でごく一部にのみ貼りついている事も多いので、顕微鏡を用いないと確認は困難です。
    ちなみに、中心の穴の直径は0.35mmです。

    厄介なのは、手洗いのみでも、さしあたって動作の回復が可能な場合が多いので、保証期間くらいは問題無く動作してしまうのです。
    姿勢を変えた場合や回転の一部でのみ、わずかな歯車の回転抵抗になるので、ある特定の条件下のみで症状が発生したりして、不具合が非常に判りにくくなるのです。

    また、洗浄機に使用する専用の洗浄液の中には、金属表面に防錆/酸化防止の被膜を形成する成分が含まれているものがあります。(当社で使用しているのは、比較的高価な被膜形成タイプの洗浄液です)

    この洗浄液を使用した事があれば、洗浄後の金属表面の光沢の度合いが、手洗いとは明らかに違う事が一目瞭然でわかり、手洗いには戻る事が出来なくなります。
    自動洗浄機を用いないでロレックスのオーバーホールを行うと、後から悪影響がじわじわ現れてきます。

    同業者と話をする場合、その方が自動洗浄機を用いていない事がわかると、こちらからは積極的な技術談義をしない事にしております。
    あまり得るものが無いからです。